尾行こそ探偵技術の中核
【原一の探偵(2015年公開尾行訓練取材時)】
身辺調査で使われる調査技術について、トップページで軽く触れましたが、ここではもう少し詳しく紹介します。
素人にできるものではないということを理解していただければ幸いです。
尾行
2015年に原一探偵事務所を初めて取材した時、ベテランの探偵さんから尾行は探偵技術の中核をなすものだと教わりました。
隠し撮りなども難しいですが、尾行に失敗すれば隠し撮りのチャンスも来ません。
やはり、まず尾行ありきなのです。
しかし、「人の後をつけるぐらい誰でもできるのではないか」と考える人も多いようです。
尾行の難しさを理解するために、いくつかの状況について考えてみたいと思います。
相手がUターンしてこちらに向かってきた場合
尾行している相手が突如Uターンしてこちらに向かってくることがあります。
尾行を怪しんで確認しようとしている場合だけでなく、何かを思い出して急に踵を返すことは珍しいことではありません。
その時、尾行者としては知らん顔をしてすれ違うしか選択肢がありません。
問題はその後です。
すれ違った後に振り向いた時、相手がこちらを見ていたら完全にアウト、つまり発覚です。
しかし、振り返らずに歩き続ければ失尾、つまり相手を見失います。
単独尾行だとこういう状況に遭遇しただけで尾行は終わってしまいます。
プロ探偵の尾行はチーム尾行なので、別のチームメイトに尾行を引き継ぐだけです。
また、あまり幅が広くない道路の場合は、反対側の歩道を歩いて尾行するテクニックもあるそうです。
これだとUターンで鉢合わせになる危険はありません。
しかし、対象との距離は開くので、やはりチームメイトのサポートがなければ、予想外の動きをされた時に失尾しやすくなります。
【チーム尾行を支える警察と同レベルの無線】
エレベーターに乗り込まれた場合
尾行対象がエレベーターに乗った場合、一緒に乗り込めば至近距離で顔を見られることになります。
相手が降りた階でいっしょに降りれば、ますます怪しい。
しかし、乗り込まなければ、どの階で降りられるかわからず、失尾する危険が増します。
これも初めて探偵に取材した時にぶつけた質問でした。
答えはスペースの都合で省略しますが、まずエレベーターの場所がデパートや駅なのか、マンションなのかによって対応が違うそうです。
いずれにせよ、素人の尾行者なら相手がエレベーターに乗っただけで戸惑うことは間違いありません。
タクシーに乗られた場合
徒歩で尾行していた相手がタクシーに乗るという状況は普通に発生します。
この場合、あなたならどうするでしょうか?
刑事ドラマだと尾行者もタクシーに乗って「あの車を追ってくれ!」などと言います。
しかし、今の時代、そんな危険が伴いそうなことを要求しても断られる可能性も大きいです。
そもそも別のタクシーが簡単につかまるとも限りません。
例えば、車の通りが全然ないところへ偶然タクシーが通りかかったのを尾行者が発見して乗ったような場合。
あるいは逆にタクシー乗り場に行列ができているような場合。
このように、相手がタクシーに乗るというのは意外に面倒な状況です。
プロ探偵の場合、チームメイトに車を待機させていて、タクシーに乗る兆候を見せた段階で車を出します。
乗ってしまってからでは遅く、立ち止まるなど兆候を見せた段階で反応しないといけないそうです。
徒歩尾行メインと予想される場合も、車は用意すべきだということです。
【原一の公開尾行訓練の時の映像】
車を車で尾行する場合
実際に試してみてほしいのですが、真後ろに近距離でつけた車の車内はルームミラーでよく見えます。
運転者、助手席の顔や表情まで丸見えです。
だから、車両尾行において真後ろに近距離でつけるのはタブーなのです。
原一探偵事務所の公開尾行訓練にオブザーバー参加させてもらった時に見せてもらったのですが、彼らは間に一般車両をはさみます。
仲間の車ではなく、たまたまそこを走っていた車をカモフラージュに使うのです。
しかし、間に車をはさめば、信号や渋滞で失尾する危険も増します。
それをカバーするのが、車両尾行においてもやはりチーム尾行なのです。
また、間にはさむ車も選ばないと、おばさんや老人の運転するどんくさい車を挟めば、それに阻まれて失尾する危険が増します。
原一の探偵さんは車内を見て一瞬でそれを判断するのを見せてもらいました。
間に挟む車が通行していない時は距離を取りますが、失尾の危険は増します。
また、ずっと前方の状況も注意していないと、相手が赤信号で停止している間に距離が詰まって真後ろについてしまったりもします。
このように車両尾行は基本の基本ですら、なかなか難しいのです。
車で追っていて駐車場に入られた場合
尾行対象の車が駐車場に入った場合、そのまま追っていっしょに駐車場に入るのはNGです。
相手は尾行を疑っていて、どんな奴が降りてくるかと待ち構えている可能性があります。
仮にそうではなくても、顔を見られる危険が大です。
尾行車はスルーし、チームメイトの車に駐車場に入ってもらって尾行を続けます。
尾行者は少し時間を置いてから駐車場に入って、先行チームに合流します。
「駐車場の外で車が出てくるのを待っていればよいのでは?」と考えるかもしれませんが、それは違います。
対象は車を降りた後に何か重要な行動をするかもしれません。
車を停めたまま、電車などで遠くに行く可能性もあります。
あるいは別の車に乗ってそこを出る可能性もあります。
実際、地方では不倫カップルが大型ショッピングモールの駐車場で待ち合わせ、片方の車に一緒に乗り込んでデートにでかけるという行動がよく見られます。
いかかでしたか?
上記は尾行のほんの初歩の初歩です。
しかし、これだけでも素人は対応に迷って失敗してしまうでしょう。
一流の探偵は、こんな例をはるかに超える困難な状況を乗り切って、調査を成功させるスキルを持っているのです。
張込み
張込は、見つからないように注意しながら相手が現われるのを待つことです。
まず、尾行の開始時に必ず張り込みが必要になります。
次に、相手がいっしょについていけない建物(例えば自宅やラブホテル)などに入って行った場合も、外で張り込むことになります。
張込で注意しなければならないことは、周辺の住民に不審者として通報されないようにするということです。
変質者による事件が多い昨今、住宅地ではすぐに通報されてしまいます。
閉鎖的な田舎では見慣れない乗用車が停まっていると、これも近所中に連絡が回ります。
原一さんの場合、田舎の張り込みにはバンや軽トラなど業務車両風の張込専用車を投入するそうです。
【業務車両風の張り込み専用車】
狭い路地など張込む場所がない場合にどうするかというのも、素人では対応が難しい問題です。
そういう場合、原一さんでは自転車のカゴなどに隠しカメラを仕込んで駐車しておいたりします。
そして映像を電波で飛ばして、離れた場所のモニター車の中で張り込みし、対象に動きがあれば、連絡を受けた別の探偵が出動します。
この装置を導入してから、張り込みがとても楽になったそうです。
【遠隔モニター車の内部】
隠し撮り
行動調査においては、撮影現場の状況に応じて、実に多彩な撮影機器が使用されます。
- 望遠レンズ付き一眼レフ
- ビデオカメラ
- 各種偽装カメラ
- 暗視カメラ
この中で各種偽装カメラというのは、腕時計、タバコの箱、ボールペンなどに仕込んだカメラです。
子供の探偵ごっこのおもちゃ、探偵ドラマや漫画に出てくるような、こんな偽装カメラが現実の調査にも使われています。
こうしたカメラの難しさのひとつは画角の合わせ方です。
下手をすると相手の顔が写っていなくて何の証拠にもならないといったことにもなりかねません。
かといって、画角を合わせようとごちゃごちゃいじりまわしていると、いかにも怪しくて発覚してしまいます。
こういった偽装カメラを使うのは、大事なシーンを接写したい場合です。
それ以外の場合は探偵はなるべく対象と距離を取り、離れた場所から一眼レフなどで狙います。
ということは、偽装カメラ使用時は相手もそばにいて緊張もひとしおのことが多いということです。
そんな緊張の中で一発で画角を合わせて説得力のある証拠写真を取ってくる。
それができるのがプロの探偵ということです。